コラム039:外国の文化を知るために


今回は,とある授業の話を。

数年前,大学に留学に来ている学生さんを数名,学校にお呼びして,交流したことがありました。中学部社会科で設定した「外国の文化・日本の文化」という単元の中のヤマ場でした。

留学生がそれぞれの出身国について,どこにあるのか,どんな食べ物があるのか,有名なものは何か,どんな祭りがあるのか,それぞれ自由にスライドを使ってたくさん話をしてくれました。留学生は,事前にしっかり準備。自分たちの国のことについてよく知っており,詳しく教えてくれて,感心させられました。そして,日本についても興味があって,結構知っている。

その交流をしながら強く思ったのが,「こちらは自分たちの国のことをどれだけ知っているのか」ということ。

ただ交流の機会を設定するのではなく,まずは自分の国のことをしっかり押さえた上で,外国にも目を向ける。そうすれば,自分の国と同じことや違うことを比べたり,感じたりできるのかなと。よくよく考えたら,はじめに自分たちの国のことや住んでいる地域のことを知るのがすごく大事だなと思ったんです。

その単元では,とにかく,同じことや違うことがあるということを知って,感じてほしかったんですよね。それを実感できるような体験作りが,結構難しいなぁと,単元を通して感じたのでした。外国に行ったことない子たちが大半で,日本で暮らしている子たちに,外国をいかに自分事として意識するようにしかければいいのか…


それから月日は流れ,先日,同じ単元の担当になりました。この単元は,中学部1~3年生まで一斉に,3年に1回ペースで行っています。

単元担当同士で今回のアイデアを練っていた時,ふと,一つの案を思いつきました。

それは,前回のように日本にいる外国人の方の交流ではなく,外国在住の日本人の方とオンラインでリアルタイムで交流する,というもの。

日本と外国では,同じことや違うことがあることを知り,感じる」のが最大の目的。その目的は,外国人の方と交流すれば達成できるかというと,そうとは限らず,日本語でやりとりのできる外国に住んでいる日本人とオンタイムで交流するのも,目的達成の一つの方法として,もしかしたら何かとメリットがあるのではないか。ということで,新しいことへのチャレンジです。

そこで,最近Twitterでつながった,アメリカ在住の日本語教師,シェーファー果林さんに相談。果林さんは,Teach Uを利用してくださったり,教材を提供してくださっている方です。今回の学習について説明すると,協力してもらえることになりました。

単元スタート

中学部社会科のこの単元を,前回の「外国の文化・日本の文化」から「日本の文化・外国の文化」に変更しスタート。

まずは,外国を意識するため,Google EarthGoogleマップで世界旅行。

その後,果林さんとのインタビューに臨む前に,模擬的なインタビュー体験をしてもらおうと,Zoomでインタビュー体験。アメリカのお友達という設定で,ケンさんがZoomで登場(誰かが演じています)しました。

ケンさん(中央)へのインタビュー

いきなりのインタビューに戸惑う子どもたち。でも,楽しそうに次々に手が挙がりました。ケンさんからは,「今度,私の友達のシェーファー果林さんにZoomでインタビューして!」と伝えられ,ケンさんとのZoomは終了。

Zoomのインタビューでは,ケンさんにアメリカのことを聞いた後「そちらはどうですか?」と尋ね返されてうまく答えられなかったり,声が小さくインタビューが伝わらなかったり,インタビューで質問して答えを聞いたけど結局うまく聞き取れていなかったり,いろいろ困ったことに遭遇しました。それでは,果林さんへのインタビューではどうすればいいのか。

日本のこと,熊本のことを尋ねられたら答えられるように調べ学習をすること。
・インターネット等でアメリカのことを調べて,それが本当か,果林さんに尋ねること。

この2つを子どもたちと確認し,果林さんへの質問作りをすることに。質問作りに入る前に,イメージづくり。どんな質問をすればいいのか。文化,生活,地理について,写真で説明しました。

写真を示し,インタビューのイメージを膨らませます

インタビューのセリフの型も数種類用意。日本,熊本のことを知ったうえでインタビューできるようなセリフにしました。

自分に合ったセリフの型を選択

そしてグループに分かれて,調べ学習スタート。ロイロノート・スクールを使いました。学年に分かれて,1年生は2人で1台,2・3年生は1人1台のiPadを使って。iPadの基本的操作スキルに合わせて台数を決めます。職業・家庭「情報」の授業で学んだキーワード検索を駆使して,写真を集めていきます。キャプチャして,トリミング操作。子どもたちは上手に操作します。動かないようにロイロの機能である「ピン止め」を使用し,カードを固定。これも,「情報」の授業で学んだワザです。

数日にわたって学んだため,毎回,「提出箱」というところに保存していきます。ロイロの「提出箱」は最近履歴がさかのぼれるようになったのでとても便利。進捗状況を確認しやすくなりました。

インタビュー当日

調べ学習をし,いよいよインタビュー当日。いつもと違う緊張感が教室を漂います。Zoomに果林さん登場!子どもたちから緊張が伝わります。私からすると,日本語が伝わる安心感がありました。

果林さんからの質問「今,こちら(サクラメント)は何時と思う?」に戸惑う子どもたち。日本と外国の「同じ」「違う」を調べてきた子どもたちでしたが,まさか[時間]が違うと思った子はおらず,誰も調べていなかったので先制パンチを食らった感じでざわつきました。

「今は,夕方の18時36分くらい。だから,こんばんは~と言いました。」こちらは日中の午前10時36分。それでも,なんだかピンとこない感じが子どもたちから伝わります。でもこれは想定内。

実は,果林さんとは事前にZoomで打合せをしていて,外の景色の映るところで配信してもらうことをお願いしていました。自分の中では,今回一番やりたかった裏テーマ,それが,オンタイムで外国とつながり,時差の違いを感じてもらうことでした。同じタイミングで昼の所と夜のところがあることや,地球が丸いこと。夏休み前の理科の学習で,「星座表」アプリのVRモードで太陽の動きを追いかけたこととも絡めて話がしたくて。

インタビューをするうちに,果林さんの窓の外の明るさがどんどん暗くなる(ことを想定した)時間設定です。果たしてうまく表現されるか…。

果林さんは写真やイラストを使ってプレゼンテーション,子どもたちにやさしく話しかけてくれました。

「このあたりでは,中学校が2年で高校が4年。だから14歳で高校1年生。」
「アメリカの学校には運動会がないので,日本語学校の子どもたちに玉入れや綱引きを教えた。」
「このあたりの中学校は1階建て。2階はない。」

面白い話が次々に飛び出します。事前に伝えておいた,子どもたちの興味に合わせたもの,乗り物や駅,街並みなどを写真で紹介してくれ,子どもたちは画面にどんどん引き込まれていました。「熊本はどうだろう?同じかな。違うかな。」

そして,インタビュータイム。

元気よく手を挙げた最初の子の質問は,「好きな果物は何ですか?」。でも最初早口で伝わらず,果林さんに「もう一度言ってくれるかな?」と言われ,もう一度言い直し,きちんと伝わる経験をしました。口を大きく開けて,ゆっくりはっきり言うと伝わるんだなぁ。

果林さん自身のことの質問から始まり,徐々にアメリカのことについての質問になっていきました。

「アメリカにボウリングやカラオケはありますか?」という質問には,「アメリカにはボウリング場はたくさんあるけど,日本みたいなカラオケボックスはないかな」

「日本は今暑いですがアメリカはどうですか?」の質問には「今日は涼しいんだけど,2週間前に気温が47℃までいったの。」との返答に,子どもたちは「え~!」の声。日本では考えられない気温にびっくり。質問した子は「熊本は今日は24℃です」と返すことができました(この日は台風14号が過ぎ去った直後でたまたま涼しい熊本でした)。

「日本のゲームセンターはマリオカートと太鼓の達人が人気ですが,アメリカはありますか。」の質問には,「太鼓の達人,あります。日本のゲームがアメリカに入ってきて,ただ,言葉が英語になっている」との回答。質問した子は,アメリカにゲームをしに行きたくなったようです。

「アメリカではそばは食べますか?調べましたがよくわかりませんでした。教えてください。」との質問には,「アメリカは,そばよりうどんの方が食べられているかな。でも一番食べられているのはラーメン」との回答に「へぇ~」という子どもたちの声。

他にも,アニメの話,列車の話,携帯電話の話,自分たちの興味と絡めながら,たくさんインタビューをした子供たち。1人1つは質問できました。

最後,果林さんから「熊本のいいところは何かな?」という集大成のような質問が来ました。子どもたちはまたざわつきましたが,一人の子が「くまモンです!」と返答。果林さんもくまモンを知っていて,伝わりました。他にも「熊本のいいところ,馬刺しを思いつきました!」という子も。

交流は大盛り上がりで終了しました。アメリカの夕暮れも,オンタイムでしっかり共有できました

インタビューの翌日,掲示物を作成しました。自分がインタビューしたことに対して,果林さんは何と答えたのか,他の人にもしっかり伝わるように文字を太く大きくしてロイロで作成。それぞれが,日本とアメリカでは「同じ」なのか「違う」のか,「どちらとも言えない」のか,ロイロノート・スクールのシンキングツールのベン図を使って全員で分類しました。それらを印刷して,模造紙に貼り付けて,感想と一緒に廊下に掲示し,単元終了。

果林さんには後日,掲示物を見てもらいました。

果林さんからのコメント。

ただインタビューで終わるのではなく、きちんとまとめてあって感動しました。素晴らしいです!私に会いに行きたいと言ってくれた生徒もいて、嬉しくて涙が出ました!貴重な機会をくださり、ありがとうございました。

今回のインタビューをきっかけに,アメリカに行ってみたいと話す子,エジプトを調べてみたいと興味が広がっている子,いろいろな反応が見られました。

また,期間中は,「特別の教科 道徳」の授業で国際理解をテーマにしたり,「外国語」の授業で世界の挨拶をテーマにしたり。朝の時間に外国の話を学級でしたり,この社会科の単元ともうまく絡めながらカリキュラムを組みました。

教材について

今回,プレゼンテーションはPowerPointで作成し,Zoomでインタビュー,ロイロノート・スクールで成果物をまとめ,紙に印刷しました。果林さんはGoogleスライドを使ってプレゼンテーションをされました。

PowerPointではTeach Uのこちらをアレンジして使用。

さまざまなツールを組み合わせた授業作りがやっぱり大事だなぁとつくづく思いました。今後も取り組んでいきます。

シェーファー果林さん,ありがとうございました!

シェーファー果林さん作の日本語教育教材はこちらで公開中

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