コラム018:オンライン利用を続けて見えてきたこと
2020年2月末の臨時休校開始,
年度をまたいで,6月からの学校再開,
それから7月いっぱいの長めの前期前半(勤務校は2学期制です)。
その間,ある資源を使って模索・実現してきた「新しい“学校”生活様式」,そして,新しい学びの形。
試行錯誤の中で見えてきたことがいろいろあるので,前期後半が始まる前に,残しておこうと思います。
長めです。
様々な変化
オンライン,むしろこっちの方がいいかも
学校再開後,オンラインツールがどうなったかは,以前こちらのコラムで書きました。
コラム016で触れた「Zoom職員会議」。この仕組みは,残りました。私の場合,毎回会議のホストをする教頭先生のミーティングIDとパスワードをメモしておいて,最初はそれを見ながら,2回目以降は履歴からミーティングに参加。アナログで残しておくと,慌てなくていいので安心です。
先日,大雨のため,臨時休校になった日がありました。その前日,緊急連絡のため,普段はZoomで集まる全職員が,リアルで全員集合。
「あ,なんか,お久しぶり」
一堂に職員が一か所に会したのは,久しぶりのことでした。コロナ禍前まででは考えられなかったエピソードです。
このZoomの普及により,「オンライン利用」が職員一人一人の中で概念化された(イメージがはっきりした)ことで,この内容はオンラインで。これはリアルで。という選択ができるようになりました。これは,かなり大きなことです。3密対策に有効である 「オンライン利用」という引き出しを手に入れた感じです。
そして,これまでやっていた,人と人とが集って進める仕事に変化が見られ,「ミーティングは集まらなくてはいけない」というような「〇〇しなくてはいけない」という,これまでの固定観念が崩れ始め,新しい発想が始まりました。「この場合,Zoomが使えるんじゃない?」というように。
授業においても同じで,「オンライン利用」が3密を確保するための選択肢として確立したことで,これまで教室の一か所に集って行われてきたオールインワンの授業の形に変化が見られはじめました。
ここにも記載がありますが,「オンラインな学び」が「リアルな学び」に置き換わるかというと,そうとは言い切れない。例えば,「50分授業を画面を介してずっと行う」というように,リアルをオンラインに置き換えようとすると,無理をするし,実現できないはずで,子どもにも大人にも,大きな負荷がかかります。授業ではありませんが,オンラインの会議が終わった後「オンラインは疲れる!」という捨て台詞を何度も聞きましたし,自分も何度も感じました。
小さな画面に自分の感覚(視覚,聴覚)を時間いっぱい研ぎ澄ませ,さらに思考フル回転で集中し続けるのは,なかなかの至難の業。大人ですらそうなので,子どもならなおさら。無理をすると,ICTに対するネガティブな印象が強化され,益々オンラインが普及しないのではないでしょうか。無理をせず,短時間で効果的に使う展開が理想,なのかもしれません。子ども目線で。
やっぱり,目的で使い分ける,「オンライン」と「リアル」のバランスだと感じます。
オンラインとリアル,混ぜると…
臨時休校中の,在宅勤務期間中だった時のこと。8人でミーティングをすることがありました。一人だけ,在宅勤務中だったので,パソコンに映し出して遠隔参加。他7人は「リアル」でソーシャルディスタンスを保ちながら一堂に会しました。この時のミーティングの仕切りは「リアル」側にいました。
ミーティングを進めると,時々「オンライン」参加の職員の存在を忘れることに気付きます。時々声をかけながら,なのですが,それでも忘れてします。その場にいるって,それだけで存在感,なんですよね。「オンライン」と「リアル」を空間的にミックスすると,その分,見え方や聞こえ方,手元の資料等,考えるべき要素が増える気がして,結局,どちらかにしてしまった方が楽だなと,感じました。
「オンライン」と「リアル」のバランスを取る必要がありますが,ただミックスするだけではコスト(労力)があがるようです。
また,ゲスト一人につき1端末でオンラインミーティングに参加すると,活発な意見交換がされづらいことが見えてきました。そこで,ミックスの仕方を考え,下図のような方法でやってみました。
校内研修で,ゲストの端末の数を絞り,そこにソーシャルディスタンスを保てる集団で集まって,意見を自然と出しやすい環境を作りました。その研修では,実践報告をする発表者の先生が数名いたので,ホスト役と発表者は別室で。この方法だと,ゲスト一人1端末で参加した時より,活発に意見交流ができたようです。テレビを見ながら,いろいろと自由に話をしている感じです。混ぜ方次第ですね。
オンライン研修とオンデマンド研修~レコーディング機能
オンライン研修(同じ時間帯で視聴)とオンデマンド研修(視聴者の好きな時間に視聴)は,[コラム015:臨時休校の記録(2020年度5月期)]でも触れましたが,Zoomを使っていて,「これはいい!」と思うのは,ミーティングの様子を動画に保存できる「レコーディング機能」です。
①Zoomミーティング開始
②「レコーディング」をONに
③ミーティング開始‐終了
④自動的に動画(mp4)に変換される
⑤動画配信サービス(YouTube,Microsoft Stream→Teams)にアップロード
これで,オンラインの様子をオンデマンド化できます。特に,④⑤が比較的短時間でできるのには最初驚きました。動画編集など,これまで何度もやってきた口ですが,「動画=重い」というイメージだったので,古いパソコンでも1時間ぐらいの動画を,さほど時間がかからず処理できるのは,アプリの進化ですね。
なので,比較的ストレスが少なく,動画のオンデマンド化が実現します。
これまで,校内のミーティングをはじめ,いろいろとオンデマンド化してきました。
何本か,Zoomのオンライン研修をオンデマンド化した後のこと。
タイミングが合わずにオンライン研修に参加できなかった職員から,
「この前の(オンデマンド)見たよ,よくわかった。また,あげといて。見るから!」
と言われた時は,「オンデマンド研修が通常になってきたな」と感じました。リアクションを返してもらえるのは,すごくうれしいもんです。
今後は,このオンデマンド化の作業を分担していけるといいなと考えています。そのためには,Zoomのホスト役とミーティング回しを,できるだけ多くの職員が経験することが重要です。
様々な変化~授業
オンラインツールを活用したサテライト授業~高等部
高等部には生徒一人一台環境が整いました。それにより,授業がみるみる変容しています。1年前とはまったく異なる授業をしています。
3密を避けるため,下図のような授業形態をとっています。
図中の「T」はTeacher,「S」はStudentを示しています。前述した「オンライン×リアル:効果的なミックス」の形態にちょっと似ています。メインティーチャーが別部屋でホスト役となり,各教室とZoomで接続。各教室では,サブティーチャーが小集団の仕切りや個別対応等を支えます。サブティーチャーは,生徒のことがよくわかる担任が担当。
メインティーチャーの教室の様子を各クラスに映し出す「サテライト」のような授業です。3密を避けながら授業を進める形を検討した結果,自然とこの形になったようです。元々,ティーム・ティーチングをよく行う特別支援学校の教員にとって,メインティーチャーとサブティーチャーの連携は日常茶飯事。この場合はオンラインですが,さほど無理なく教員間で連携して授業ができると感じました。
子どもたちの机上には個人のiPad。そして前方には各教室の大型提示装置(可動式液晶テレビ)。そこに,メインティーチャーが進行する様子が映し出されたり,他のクラスの発表の様子が流れたりします。発表時は,スポットライト機能で,発表者が液晶テレビに大写しになります。また,手元のiPadは,自分の考えを表現する手段として,デジタルの学習ツール(ロイロノート・スクール)を使われる授業が増えてきました。
外部講師と~中学部
他学部では,まだ一人一台環境は整っていませんが,オンラインツールの活用は進んでいます。
中学部の職業・家庭科「幼児について学ぼう」では,直接会うことのできない育休中の職員のお子さんと,Zoomでつながりました。
1回目ではお子さんの特徴をお母さんにインタビューして尋ね,2回目で画面越しにお子さんを楽しませるというもの。
1回目。
学部全員,広い教室に,3密を避けながらも一緒にいたので,インタビューする生徒の声がスピーカーから出て,それをその場にあるマイクが拾うというループができてしまい,ハウリングがひどくて,厳しい授業になってしまいました。
2回目は反省を生かし,高等部のような「サテライト」で実施。メインティーチャーは別室で,生徒は学級ごとに集まってZoomを液晶テレビで視聴。生徒は学級ごとに考えたこと発表していきました。練習した「いないいないばあ~」をしたり,子供向け番組の歌を踊ったり,手作りの紙芝居をしたり。お母さん先生が,お子さんの表情がしっかり写るようにカメラを配置してくれたので,お子さんの様子を見ながら,生徒は実演できました。ミュート(マイクオフ)の管理がうまくいき,ハウリングはなく,うまくいきました。音声の「入力」と「出力」を何らかの形で,忘れずに切り離すことは,オンラインツールを成功させる一つのコツのように思います。
様々な変化~研修
県外の学校で情報研修
県外の学校からお声掛けいただきまして,勤務校にいながらお話をさせていただきました。これまででは考えられなかったことですが,この仕組みはおそらくwithコロナ,afterコロナの時代でも,残る仕組みではと感じています。移動距離,移動時間を考えても,メリットが大きいです。その地に行くことができないという,デメリットもありますが。
8月5日 宮崎県立日向ひまわり支援学校校内研修
8月8日 新潟大学教職大学院 にいがた教育フォーラム2020 in August
遠方でなかなか研修に行けない人,子育て中で時間がとりづらい人,様々な立場の人がフラットに研修できるオンライン研修は,これから益々ニーズが高まるように思います。オンラインでの参加,Zoomでの参加への抵抗感,という壁を超えさえすれば。
必要なこと~家庭のフォロー
コラム015で「特別支援学校の場合は,家庭での授業のサポーターはご家族が主」と書きました。そのフォローのために,PTAの情報研修が実現しました。
臨時休校時,物理的に会えない各家庭に対して,まったく経験のないZoomをお願いするのは,かなり苦戦した経験がありました。直接会えるうちに,実機を触りながらの研修をすることが重要と感じていて,その話を聞いてくれた高等部の先生が企画してくれました。
内容は,iPadの基本操作(文字入力,QRコード読込等)と,Zoom,そして今後家庭学習での活用も見越して,ロイロノート・スクールでした。
今月末には,中学部でも実施します。
これから
求められる専門性
教室という同じ空間で,直接顔を合わせた環境での学びをこれまで考えてきた現場の教師にとって,違う空間で画面を介してつながるこれからの新しい学びの形は,大多数にとっては未知の領域です。そこに求められる教師の専門性は,これまでのものとはまた変化してくると思います。「オンラインの方がいいかも」というケースも出始めていますし,新しい形態の方が便利な状況がある以上,おそらく元の状態には戻りにくいのではと感じています。
新しい学びの形ではもちろん,これまでの教育技術は利用できるのでしょうが,それだけではおそらく不十分で,「これまでは〇〇だったから」という固定観念をいかにほぐして,「こっちの方がうまくいくかも」という模索を始めることができるかが,これからの新しい学びの形に対応できる鍵になる予感がします。
デジタル学習ツールによる「新しい学びの形」
そして,「この授業を通して,子どもたちが何を学ぶのか」が,デジタルの学習ツールを使う中で,より意識するようになりました。
たとえば,算数・数学の授業。
子どもが,数の大小を理解できているかを表現するのに,必ずしも筆記用具がいるとは限りません。
上図はデジタル学習ツールの「ロイロノート・スクール」で作った教材ですが,数字のカードが並んでおり,iPad上で数字カードを指で触って動かすことができます。子どもは,カードを並べ替えることで数の大小を理解できているかを表現できるわけです。iPadを操作し,自分のがんばった成果をロイロで提出します。
「数字を書く」という行為は,数字の形を知っているだけでは成立せず,その情報を筆記具を使って相手に伝わる形で筆記する必要があります。ここに,エネルギーを必要とする子はたくさんいます。
もちろん,「文字を書く」より「数字カードを並べ替える」方が難しい子もいるかもしれませんが,ここでお伝えしたいのは,
デジタルの強みは,選択肢を手軽に用意できること。
アナログでも,同様のことはできます。ただ,デジタルの場合,準備が大幅に楽になります。
数字カードを一人ずつ作るとなると,印刷したり,ラミネートしてカットしたりと,かなりのコスト(労力)がかかります。
複製や反復が得意なデジタルだと,そのコストは軽減できます。選択肢を用意しやすくなります。
ちなみに,カード教材のPDF教材を作り,Teach Uで公開しています。↓のライブラリの中です。興味があられましたら,ご覧ください。
最後に告知です
3点です。
①TU Partsについて紹介した記事が,こちらの書籍に掲載されます。
withコロナ時代の特別支援教育 — 明治図書
https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-513422-4
②2021年2月13日(土)熊本大学教育学部附属特別支援学校の研究発表会を実施予定(オンライン)です。
「情報活用能力を発揮して未来社会を切り拓く 知的障害のある児童生徒の育成に関する研究」
https://www.educ.kumamoto-u.ac.jp/~futoku/
③日本特殊教育学会でポスター発表と自主シンポジウムの発表をします。
https://www.jase.jp/taikai58/